日本
小さな坂を駈ける。
大好きだった縁側。
暗い細道を走って帰る。
坂の上から見える小学校舎。
大きく見えたはずの庭。
そこにあったニワトリの小屋。
早朝に聞こえた鶏の鳴き声。
生温かかった白い卵。
大きくなったわたしが見た、
あったはずの何も見えない庭。
今はもう、いない鳥たち。
すべてが白く見えた。
光り輝く、つやつやのニワトリ。
色とりどりに見えたその小屋。
その背景に差し込む、太陽のひかり。
モノクロ写真のなか
大きな猫を抱く小さな少年。
幼き頃の父の姿。
当時の日本という国。
思い出は、時に残酷。
会いたいものは、
すべて思い出のなかにある。
会いたい人には、
いつも会えない。
20年ぶりの帰省に、
なんの変化もない家屋。
小さい頃のわたしが
見えたものは、消えてはいなかった。
幼き私の分身は、
確かにここに存在する。
ただ、
会いたい人には、いつも会えない。
ただ、確かに、
日本はここにある。